フィリピン移住を検討する際、現地の宗教事情や文化への理解は欠かせません。特にキリスト教、なかでもカトリックの影響が強い国であるため、生活のさまざまな場面に信仰が深く関わっています。「無宗教だけど大丈夫?」「食文化や人付き合いで気をつけることはある?」そのような不安を抱える方も少なくありません。
この記事では、フィリピンの宗教の基礎知識から、宗教が日常生活・食文化・教育・法律にどのような影響を与えているかを、わかりやすく解説します。文化的な違いを理解することで、トラブルを避けながら安心して移住の準備を進められるでしょう。現地での暮らしをよりリアルに想像するために、ぜひ最後までご覧ください。
目次
フィリピンの宗教事情の基礎知識

まずは、フィリピンにおける宗教事情の基礎知識を解説します。
国民の約8割がカトリック信者
フィリピンは、アジアで唯一キリスト教徒が多数派を占める国とされています。中でもローマ・カトリックの信者が特に多く、2020年の国勢調査では、国民の約78.8%がカトリックを信仰していることが確認されました。
このような宗教分布は、スペインによる長期統治の影響を色濃く反映したもので、現在もフィリピンの文化や生活習慣に深く根付いています。
加えて、プロテスタント系の教会や、フィリピン発祥の宗派であるイグレシア・ニ・クリストなども国内各地に広がっており、これらを含めると国民の9割以上がキリスト教徒に分類される状況です。
参考:ワールドファクトブック
宗教行事が社会生活に深く浸透
フィリピンでは、宗教行事や慣習が人々の日常生活に深く根付いており、社会生活とは切り離せない重要な要素です。
例として、「フィエスタ(Fiesta)」と呼ばれる祝祭は、各地の町や村が守護聖人の日を祝う伝統的な行事。ミサの後には地域住民が集まり、音楽や料理を通じて盛大に祝宴が開かれます。また、クリスマスは毎年9月頃から飾り付けが始まり、世界で最も長く続くクリスマスシーズンとしても知られています。
聖週間(ホーリーウィーク)には、多くの人が仕事や学校を休み、教会でのミサや行列に参加するのが一般的です。木曜日から金曜日にかけて7つの教会を巡る「ビシータ・イグレシア(Visita Iglesia)」という巡礼の風習も受け継がれています。
イスラム教やその他の宗教も存在
カトリックが多くの人に信仰されている一方で、フィリピンにはさまざまな宗教が共に存在しています。イスラム教徒のためのモスクが建てられたエリアもあり、イスラムの文化や暮らしのスタイルも地域に根づいています。
そのほかにも、プロテスタント系の教派や、先住民族の伝統的な宗教が信仰されているほか、華人系や日系の住民の間では仏教を信じる人も見られます。これらは少数派ではあるものの、フィリピンの宗教的な多様性を支える一部分といえるでしょう。
また、フィリピン憲法では特定の宗教を国教とせず、信仰の自由が保障されています。さまざまな宗教を持つ人々が共に暮らしている点も、フィリピン社会の特徴のひとつです。
フィリピンの宗教が暮らしに与える影響とは?

フィリピンでは、宗教が人々の価値観や日常の習慣に強い影響を与えています。以下では、宗教がフィリピンの暮らしに具体的にどのような形で関わっているのか、いくつかの側面に分けて紹介します。
日常生活と宗教のつながり
フィリピン人にとって、信仰は生活に深く根ざした極めて重要なものです。世論調査によれば、「自分の生活に宗教はとても大事だ」と考える人が全体の83%を占めており、多くの人が日常的に宗教行事に参加しています。毎週礼拝に通う人は約45%、月に1回以上出席する人が32%にのぼります。これに対し、まったく行かないと答えた人は1%未満にとどまりました。
町には教会や聖人の像が見られ、ジープニーやバスといった公共交通機関には聖句や宗教的な言葉が掲げられることも少なくありません。こうした光景は、信仰が日常に深く根付いていることを象徴しています。
また、食事の前に祈りを捧げたり、夜寝る前に祈祷を行ったりする習慣も一般的です。
参考:Social Weather Stations(SWS)の調査
宗教と食文化の関係
フィリピンの食文化には、宗教による厳格な制限はあまり見られませんが、特定の時期や地域では信仰が食習慣に影響を与えることがあります。
カトリック信者の間では、四旬節や聖週間のあいだに食事を控えめにする風習があり、特に聖金曜日には肉を避けるのが一般的です。この時期は魚や野菜を中心とした食事が多くなり、断食や節制の習慣も受け継がれています。
一方、イスラム教徒が多く暮らす南部の地域では、豚肉を使わないハラール食品が広まり、ラマダンの期間中には日中の飲食を控える慣習が根づいています。
都市部のレストランではハラール認証の表示が見られるなど、異なる宗教の食文化に対する配慮が進んでいる点も、フィリピンの特徴のひとつです。
教育・医療における宗教的影響
フィリピンでは、宗教団体が運営する学校や病院が各地に存在し、教育や医療の分野においても信仰の価値観が根強く反映されています。
私立学校の約8割がカトリックをはじめとした宗教母体を持つミッションスクールといわれ、宗教の授業や朝の祈り、礼拝の時間が日常に組み込まれているのが特徴です。
医療分野では、カトリック系の慈善団体が運営する病院が多く、信仰に基づく倫理観が医療の現場にも影響を与えています。特に治療方針や医療判断の場面において、宗教的な考え方が重視される傾向があります。
家族・人間関係と宗教の価値観
フィリピンでは、家族を重んじる文化の背景にカトリックの教えが深く根付いています。家族は神聖な共同体とされ、親族同士の助け合いや結束が重視されているのが特徴です。
日曜ミサへの家族全員での参加や、祈りの習慣など、日常生活にも宗教的な価値観が自然に組み込まれています。敬神や隣人愛は、子どもの教育や地域社会での人間関係にも影響を与えてきました。
伝統的な家庭観が今も多くの人に支持されており、こうした信仰に基づく価値観が、フィリピンの温かな人間関係や支え合いの精神を育んでいます。
法律・制度に及ぼす宗教の影響
フィリピンの法制度には、カトリックの価値観が強く反映されています。特に離婚制度では、バチカンを除けば世界で唯一、法律上の離婚が認められておらず、結婚の解消は婚姻無効や別居など限られた手続きに限られます。
生命や倫理に関わる分野でも、宗教的信念が法制度に影響を与えており、医療や家族政策を巡って教会の立場が政策判断に影響を及ぼす場面も少なくありません。
フィリピンでは政教分離を掲げながらも、実際には宗教が制度や立法過程に深く関与している傾向にあります。
フィリピンにおける「無宗教」の立場はどう見られる?
フィリピンでは宗教を信仰する人が圧倒的多数であり、無宗教や無神論の立場は非常に少数派です。国勢調査や社会調査によれば、無宗教を自称する人は全人口の1%程度からそれ以下にすぎません。
法的には信じない自由も保障されていますが、日常生活では宗教が前提とされる場面が多く、無宗教の立場は周囲との関係で配慮を求められることがあります。特に地方や年配層では、信仰のない人に対する偏見が根強い場合もあるでしょう。
一方で、都市部を中心に個人の信条を尊重する考え方も広がっており、信仰の有無にかかわらず他者への理解を持つことが重要とされています。
外国人が宗教施設を訪れるときのマナーと注意点

フィリピンで宗教施設を訪問する際は、信仰への敬意を払った行動が求められます。
カトリック教会では、肌の露出を控えた服装を心がけ、ミサ中は静かに振る舞いましょう。写真撮影は基本的に禁止されており、注意が必要です。礼拝のない時間帯に見学が可能なこともありますが、祭壇には近づきすぎず、祈っている人への配慮が求められます。
モスクを訪れる場合は、靴を脱ぎ、男女とも露出を避けた服装を着用します。女性は髪をスカーフで覆うのが一般的です。礼拝中の信者の前を横切らない、人の写真を撮らないなど、慎重な振る舞いが望まれます。モスクによっては非イスラム教徒の立ち入りを制限しているため、事前確認が安心です。
その他、仏教やヒンドゥー教などの宗教施設でも、服装、声の大きさ、写真撮影に配慮が必要です。施設ごとの作法を知り、現地の人々に倣う姿勢が大切です。
日本とフィリピンの宗教観の違いを比較
日本とフィリピンでは、宗教が社会に果たす役割に大きな違いがあります。
比較項目 | 日本 | フィリピン |
---|---|---|
宗教的アイデンティティ | 無宗教を自称する人が多数。特定宗派への所属意識は弱い | カトリック信仰が国民的アイデンティティに近い |
日常生活との関わり | 宗教は背景的・儀礼的。日常会話や行動にはあまり登場しない | 祈り・ミサ・宗教表現が日常に根付いている |
法律・制度への影響 | 政教分離が徹底され、宗教が法律に影響することは少ない | 離婚禁止など、カトリック教義が制度に反映されている |
教育における扱い | 公立校では宗教教育なし。宗教色は薄い | 宗教科目や朝の祈りが広く行われている |
祝日・宗教行事 | 宗教由来の祝日はほとんどなし。年中行事として存在 | 宗教祝日が多数。祈りや教会参加が一般的 |
日本では宗教は私的なもの、または伝統行事の一部として扱われる傾向があり、社会制度や学校教育にも宗教色はあまり見られません。
一方フィリピンでは、信仰が人々の生活や価値観の中心にあり、法律や教育、祝祭日など社会の多くの場面に宗教が関与しています。
まとめ
フィリピンに移住するにあたって、現地の宗教について理解しておくことは非常に大切です。カトリックを中心とした信仰は、人々の暮らしや社会の仕組みにも深く関わっています。宗教行事や日々の習慣に配慮することは、現地の人との良い関係づくりや、地域社会に溶け込むうえでも欠かせません。
また、無宗教であることがどう見られるかや、宗教施設でのマナーについても知っておくと安心です。移住をうまく進めるには、文化や宗教を尊重する気持ちを持ち、現地の生活に寄り添う姿勢が大切になります。
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